「終身雇用」の幻想は崩れた日本の企業はこれまで「首切り」はしないといってきたが、倒産の危機に直面すれば、背に腹は変えられない。
それがいまの経営者の本音だ。
今回の不況までは、研究職や調査、あるいは広告部門の人材を営業に配置転換したり、あるいは子会社へ出向させるなどの対策をしてきた企業が多い。
しかし、この円高状況のなかで、そうした雇用対策の選択肢が徐々に手詰まりになってきている。
とくに、バブル経済の時期の威勢のよかった企業ほど、生き延びるための大変革を余儀なくされている。
もう年功序列、終身雇用などといってる余裕はなく、生産性の上がらない社員の首をさっさと切り、早く身を軽くしたいのが本音である。
「窓際族」から「企業内失業」へ、そして解雇への道が、いつ誰にやってくるかもわからない。
終身雇用制は日本的経営のいちばんの特徴のようにいわれてきたが、日本で圧倒的多数を占めている中小企業には、もともと終身雇用などなかった。
ただ、企業イメージにマイナスになるから、なるべく「首切り」だけはしないよう、あの手この手で引き延ばし策を考えているに過ぎない。
こういう話を始めると、すぐにパイオニアの指名解雇が引き合いに出されるが、事はパイオニアに限らない。
表面上は自主的な退職に見せつつも実質的には「首切り」を行なう企業さえ出始めた。
それなら、会社側からあっさり解雇される方が、まだましという声さえある。
ここまで事態が悪化してしまった理由の1つは、バブル時代の放漫経営である。
世の中の浮かれ気分に乗って、それ行けどんどんと設備投資を行ない、その資金は金利がタダ同然のエクイティーファイナンスで調達する。
一方で、新卒者を大量に採用していった。
景気が引き続き伸びていれば、そこから大きな利益を産み出せたかもしれない。
しかし、そんな甘い憶測は跡形もなく崩れ、現実には長期的な低迷状態になってしまった。
さらに円高が追い撃ちをかけている。
いま、最大の課題はバブル経済のなかで膨らみに膨らんだ人件費をどう減らすかにある。
とりわけ、中高年への風当たりは強い。
すでに、80年代前半から日本企業の多くは団塊の世代の管理職化が始まることで、ポスト不足に悩まされ始めていた。
そこで、職能給制度や年俸制などを導入しようとする企業も出ていたが、バブル経済期に経済が大きく拡張したために、その必要性が一時的に解消されてしまった。
これまで会社に尽くしてくれた中高年の居場所を確保する余裕があったと言い換えてもよいだろう。
ところが、経済拡張が続いている間に、当然のことながら給与も増えている。
中高年層の高い人件費への負担は、より一層深刻にならざるを得ない。
一般に、50歳以降になると、会社への貢献度よりも給与の方が高くなってしまう。
それをどうするかが、いま最大のテーマになっている。
とくに、団塊の世代への圧力は大きい。
あと3年から5年で、団塊の世代は50代になる。
そのとき、年功序列・終身雇用制は完全に崩れさるだろう。
だからといって、簡単に「首切り」を行なうことは許しがたいことだし、社会的な非難・制裁を受けることになる。
バブルの時期に成長幻想に惑わされた経営を行なった経営者こそ責任を問われるべき筋合いではある。
そうした事の良し悪しはあるとしても、現実的には、ほとんどの会社が人事システムの再構築に迫られている。
経済企画庁の「企業行動アンケート調査」によれば、管理職の人材過剰感を訴える企業が多いのが目立つ。
40〜50歳の男性が過剰だと答える企業が45.3%、50歳以上の男性では77.1%に及んでいる。
また、労務行政研究所の調査によれば、従業員3千人以上の企業で8割が早期退職優遇制度を導入しているという。
日本企業の多くは、是が非でも、人事ピラミッドの上層部を軽く薄くしたいと、頭をひねり続けているのである。
端的にいえば、「能力のない者、生産性のない者は去れ」という時代になった。
サラリーマン下剋上の時代である。
会社に忠誠を誓って、真面目に働いていれば、給料は毎年上がり、定年まで勤められるという悠長な時代はすでに遠くなりつつある。
いまや、終身雇用を「夢」見ながら、安い賃金で忠実に働いてくれる若手社員がいない代わりに、生産性が落ちた中高年層が「終身雇用の幻想」にしがみつこうとする。
それでは、会社の方も終身雇用・年功序列という「幻想」をチラつかせて、社員のインセンティヴを高めることなどできない。
これまでお題目に終わっていた能力主義を本格的に導入しなければならない時代になったのである。
さらにいえば、この状況は景気が少々回復しようとも変わりはしない。
もう後戻りはない。
現在、進行する多くの試練は、とくに中高年サラリーマンにとって大きな「逆風」ではある。
しかし、「逆風はチャンス」でもある。
これを単なる「逆風」にしてしまうのか、それとも「チャンス」として活かせるのか。
それは1人1人のサラリーマン自身に問われてくる問題である。
逆風のときをどう過ごすのか波風の立たない平穏な人生があるのならば、それがいちばん理想的かもしれない。
しかし、残念ながら、そのような人生はあまりないようだ。
「若いときの苦労は買ってでもしろ」といわれるが、誰もわざわざ苦労を買いたいとは思わない。
ましてや、中高年になってからまた苦労させられるのはつらいものである。
それでも苦労がやってくるのが人生というものだ。
しかし、苦労には、やはり買ってでもしろといわれるだけのものがあると思う。
順風満帆のときには、人はなかなか自分の欠点に気づかないし、たとえ気づいたとしても直そうという気にはなれないものだ。
「逆風」のときこそ、自分を変えるチャンスであり、企業体質を強化できる好機である。
私事で恐縮だが、サラリーマン時代、出世街道をまっしぐらに走っているときは、やはり自分の欠点に気づかなかった。
左遷されてみて初めて、他人の心の痛みや、サラリーマンの切なさが身にしみた。
当時、私は派閥人事の逆風にのみ込まれ、突如閑職に追いやられてしまった。
しかたなく、それまで忙しくてなかなか読めなかった古典を読みふけり、自分の境遇と照らし合わせながら、人の世のことを深く考える機会を得た。
それが幸いしたのか、いまの私は、評論家のまねごとをしながら、何とか人様に頭を下げないでも食べて行けるようになった。
逆風のときこそ、生き方を深く探るときであり、生き方を発見できるときである。
逆風が激しければ激しいほど、好機となる。
それは、1人の人生でも企業でもあまり変わらないように思日本的経営の地盤が確立したのは、ほかならぬオイルショックのときだった。
資源も何もない日本は、原油価格の高騰で沈んでしまうと、世界中のエコノミストたちは信じて疑わなかった。
しかし、それが日本にとって省エネ化とロボット化を進める最大のチャンスになった。
2度のオイルショックを克服することで、日本の生産システムは世界一になっていた。
とくにこの時期、中小企業が大きく育ち、合理的な経営システムが整っていった。
1985年のプラザ合意に始まる円高のときも、誰もが日本もこれでおしまいになると思った。
みながリストラクチャリングだといい、旧来のシステムに大変革を加え、鉄屋がうなぎ屋をはじめ、人員削減を断行した。
しかし、嵐が過ぎ去ると、韓国に負けるといわれた鉄鋼も息を吹き返し、世界一の座を守っている。
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